2009年8月23日更新
ヴィラ・ロボスという作曲家をご存知でしょうか?運刻斎は若年の頃に、ほんのすこしクラシック・ギターを勉強したおかげで、
アンドレス・セゴビアが演奏するこの作曲家の作品である12曲のギター練習曲などに馴染んでいました。そのころは南米の作曲家
などと半分無視していましたが、20年以上あとになってヴィラ・ロボスの名前を再発見することになります。
会社員生活でギターからも遠ざかり、ヴィラ・ロボスという名前とも疎遠になりましたが、1997年に出張先のフランスでたまたま
パリにいたとき休日にぶつかりシャンゼリゼにあるヴァージン・レコードの売り場で今週の売れ筋と銘打ったREVEという題名のCDが
ありました。このCDはオムニバス形式で名曲全集的なものですが、内容はフォーレ、ドビュシー、サティなどフランス人の作曲家の
作品ばかり、その中でなつかしいヴィラ・ロボスの名前を見つけたのです。曲名はバッキアナ・ブラジエリア第5番の第1楽章アリア・カンティレーナ
という曲で往年の名ソプラノであるネタニア・ダヴラツがレナード・バースタイン指揮するニューヨークフィルの伴奏で歌っているものでした。
早速ホテルに帰って持参していたノート・パソコンのCDドライブで試聴してみると、何とも哀調の漂う印象的な歌でした。同じ曲をその後
キリ・テ・カナワとかキャサリーン・バトルなど他のソプラノ歌手のCDで聞いて、改めてヴィラ・ロボスという作曲家に興味が増してきました。
そして今年7月偶々新聞広告でヴィラ・ロボス没後50年記念《ブラジル風バッハ》全曲演奏会が日本で公演されることを知りました。
指揮者はブラジル生まれの若手ロベルト・ミンチュクそしてウイーンのフォルクス・オーパの専属で日本を代表するソプラノ歌手中嶋彰子さん
が上記第5番の全曲(全2楽章)を歌うことが判りました。場所は東京オペラシティコンサートホールの武満メモリアルでの公演ということで
早速インターネットでチケットの手配をしたところA席を2枚確保できました。下記がプログラムです、なんと作曲者オリジナルの楽器編成で
全曲演奏です、司会をされた加藤昌則 さんの説明では、オリジナルでの全曲演奏はおそらく世界初演ではないかとのことでした。
ヴィラ・ロボス没後50年記念《ブラジル風バッハ》全曲演奏会 2009.8.22[土]14:00開演
[出演]
指揮:ロベルト・ミンチュク、ソプラノ:中嶋彰子、フルート:斎藤和志、
ファゴット:黒木綾子、ピアノ:白石光隆、新国立劇場合唱団[合唱指揮:三澤洋史]
東京フィルハーモニー交響楽団、司会:加藤昌則
[曲目]
・ブラジル風バッハ第6番(1938) 〜フルートとファゴットのための
・ブラジル風バッハ第9番(1945) 〜無伴奏合唱のための
・ブラジル風バッハ第4番(1930-1941) 〜ピアノのための
・ブラジル風バッハ第1番(1932) 〜8本のチェロのための
・ブラジル風バッハ第5番(1938) 〜ソプラノと8本のチェロのための
ロビーコンサート(ギター:益田正洋)
・ブラジル風バッハ第3番(1934) 〜ピアノとオーケストラのための
・ブラジル風バッハ第8番(1944) 〜オーケストラのための
・ブラジル風バッハ第2番(1933) 〜オーケストラのための
・ブラジル風バッハ第7番(1942) 〜オーケストラのための
音楽の専門家ではありませんから、甚だ主観的ですが印象を語らせて戴きます、プログラム中で運刻斎が良かったと思う順番に並べてみると
@第9番A第5番B第7番C第1番の順でしょうか?中でも第9番の合唱を担当した新国立劇場合唱団の演奏の迫力には圧倒されました、
日ごろ合唱というジャンルには全く縁のない運刻斎にとって人の声だけでこれだけの音楽表現ができるということに驚きと感動を戴きました。
次いで第5番は運刻斎にヴィラ・ロボスという作曲家に接する機会を作ってくれた曲です。中嶋彰子さんの歌唱力もさることながら、曲の素晴らしさ、
8本のチェロとソプラノの組み合わせは今まで聞いた組み合わせ、フルオーケストラ(キリ・テ・カナワ)、小編成オーケストラにチェロ独奏(ネタニア・ダヴラツ)、
ギター独奏(キャサリーン・バトル)などとの共演よりも一段とこの曲の魅力を引き出すことがわかりました。
また第7番の第1楽章は哀調を帯びた主題はアメリカ大陸原住民族のメロディーなのか、秀逸なオーケストレーションとも相まって
素晴らしいです。またフィナーレのフーガがこれまた緻密な仕上がりで、もちろんオケのメンバーの努力と指揮者のロベルト・ミンチュクさんの
表現力に他人からは冷血といわれている?運刻斎が思わず涙を出してしまいました(笑)。
中嶋彰子さんは休憩時間にはロビーに出てこられて、また第3番と第8番は我々の前の席に座って聞いていらっしゃいました、
美人で国際サイズの体躯はさすがヨーロッパで活躍されているプリマは違うと感じさせるものがありました、お聞きしたところでは
先々週までオーストリアの第15回シュタイヤー音楽祭でカルメンのミカエラを歌っていらっしゃたとのことでした。第1番は第5番に
相通じるものがありますがチェロの合奏という独特の音の響きに感動してしまったのです。もちろんその他の曲目も素晴らしい演奏でした。
白石光隆さんのピアノの力強さ、最初の曲フルートとファゴットの2重奏も素晴らしかったです。なお指揮者のロベルト・ミンチュクさん
はサンパウロ生まれの42歳の新進の指揮者でアメリカやカナダで活躍している方です。この演奏会の模様は10月25日にNHK・FMで
全曲放送されるとのことですから読者の皆様もぜひお聞きください。
エイトル・ヴィラ・ロボス(1887年3月5日 - 1959年11月17日)について(プログラムから抜粋)
ヴィラ・ロボスは1887年、リオ・デ・ジャネイロに生れた作曲家で音楽好きの父にチェロを習い、ピアノ好きな叔母の影響を受けてバッハ
を知ったと伝えられています。この叔母はJ.S.バッハの平均律クラヴィーア曲集を好んで弾いたと伝えられていて、彼の音楽に大きな影響
を与えたと言われています。独学で作曲を勉強し、クラシックの技法にブラジル独自の音楽を取り込んだ作風で知られています。20世紀を
代表する作曲家の一人であり、多作家としても知られていて、その夥しい作品数は20世紀最大とも言われています。1905年と1912年にブラジル
奥地に民謡の収集に出たあとで、リオ・デ・ジャネイロに戻った彼は1915年11月13日に新作のコンサートを開き、これを契機に、1922年には
サンパウロの近代音楽週間に招かれて以来世間に認められ、政府の奨学金を得て、1923年にパリへ留学しました。彼は1930年までパリで暮らすのですが、
この7年間に幅広い音楽家の知遇を得てまたその才能を欧州の人々に知られるようになりました。1930年に帰国した彼はリオ・デ・ジャネイロの
音楽院の院長に就任し、音楽院の教育課程を見直すと同時にブラジル音楽の真価を浸透させるべく、ブラジルの民俗音楽に根ざした作品を創作して
世界各地で演奏を行いその音楽はアメリカやフランスをはじめ各地で大成功を収め20世紀を代表する作曲家の一人となりました。
1959年リオ・デ・ジャネイロで72歳で没しました。
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